口腔がんの新たな治療戦略
早期がんは手術、進行がんは動注化学放射線治療早期がんは手術、進行がんは動注化学放射線治療

人口10万人あたり6例未満の希少がんといわれる口腔がん。当院では手術に加え、動注化学療法と放射線治療を組み合わせた動注化学放射線療法を用いた治療を行っています。今回は、口腔外科の治療に携わる歯科口腔外科部長の又吉亮医師と、動注化学療法でこれまで様々な種類のがんを治療してきた放射線部統括部長の平安名常一副院長に、口腔がん治療について話を伺いました。
口腔がんとその治療法について教えてください。
又吉 口腔がんは口の中にできるがんで、約50%は舌がんです。そのほかに舌の下にできる口腔底がんや歯茎にできる上顎歯肉がん、下顎歯肉がん、頬にできる頬粘膜がんなどがあり、3割程度は頸のリンパ節に転移します。これらの口腔がんの治療は、ステージ4であっても可能な限り手術をして根治を目指すことが推奨されており、第二選択として、抗がん剤による全身化学療法と放射線療法を組み合わせた化学放射線療法を行うことがNCCNおよび口腔癌診療ガイドラインで定められています。手術は、視診・触診・術前検査などで想定したがんと分かる部分から10~20ミリの幅を持たせた正常に見える範囲を含めて切除します。切除した後、失った部分に皮膚や筋肉を移植し再建する手術も行います。摂食・嚥下・会話機能は多少衰えても許容できる程度で収まっている人がほとんどです。また、手術療法の入院期間の目安は24週間程度で社会復帰が早いのが利点です。切除範囲が大きくなり、会話や食事に影響がでるような生活の質(QOL)が著しく損なわれると予想される場合や、そもそも手術が困難な場合は化学放射線療法を行います。この場合の治療期間は最低3か月必要で、抗がん剤や放射線の副作用に耐える体力と精神力が必要になる、かなり厳しい治療になります。
平安名 実は口腔がんを含む、頭頸部(口や鼻、喉、甲状腺などの総称)の進行がんで、第二選択の化学放射線療法を行った場合、残念ながら良好な治療成績を上げているとは言い難いのが現状です。そこで当院では、化学放射線療法に替わる方法として、動注化学療法と放射線治療を組み合わせた、「動注化学放射線療法」を行っています。通常の化学療法(抗がん剤治療)では点滴で静脈より抗がん剤の全身投与を行いますが、動注化学療法はがんを栄養する血管(動脈)に直接カテーテルを挿入して抗がん剤を注入する方法です。通常の点滴による抗がん剤の静脈投与よりも腫瘍局所に確実に抗がん剤を投与できるので治療効果が高く、静脈からの全身投与よりも少ない量の投与で済むため患者さまの負担も最小限に抑えられます。同時に放射線治療を行うことでこれまで効果が得られなかったケースでも、良好な結果が得られています。
動注化学放射線療法のメリットについてお聞かせください。
平安名 ほんの10数年前はなるべく手術をして命を取り留めることが第一で、口の中の大部分を失い生活の質を保てない患者さまも残念ながらいました。これからは次の段階として、がんの根治を目指した上で生活の質を考慮した治療を提供しなければなりません。動注化学放射線療法をうまく組み入れることでそれが実現できる可能性が高まります。又吉 ここ10年でがんの治療薬も様変わりしました。昔からよく使われている抗がん剤のほかに「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」が登場したことで5年生存率が上がってきました。ICIは、がんが免疫細胞の攻撃を逃れる仕組みを解除してくれる薬です。これを抗がん剤が効かなくなった患者さまに投与すると再び化学療法の効果が出ることがあります。動注化学療法で抗がん剤を局所的に投与することでさらに治療効果を上げることが期待できますし、治療の幅はかなり広がっています。また、当院では常に口腔がんに罹患した患者さまの臨床情報を放射線治療科と共有しており、再発の可能性や、再発した場合の次の治療手段について、口腔外科と放射線治療科で慎重に検討した上で、適切な治療法を患者さまに提案しています。仮に再発したとしてもお互いに情報共有していることで次の治療戦略をスムーズに立てられることに繋がっています。