大腸がん
知っておきたい病気のコト
今年4月より外科部長として入職した江口征臣医師。消化器や乳腺を専門とし、これまで盲腸や胆嚢炎といった急性期疾患からがんまでさまざまな病気の治療に貢献してきました。幅広い経験と知識を持つ江口医師に、近年患者数が増えている大腸がんについて話を伺いました。
大腸がんとはどのような病気ですか?
大腸(直腸・結腸・肛門)に発生するがんには、大腸表面の正常な粘膜から発生するものと、良性のポリープががん化するものがあり、日本人の大腸がんはおよそ70%がS状結腸と直腸に発生することが知られています(左図参照)。大腸がんは進行とともに大腸の表面から壁の中に深く侵入し、リンパ液に乗ってリンパ節転移をしたり、血液の流れに乗って肝臓や肺など別の臓器に転移していきます。
自覚症状は、早期ではほとんどありません。部位にもよりますが、がんが進行して大きくなると、血便や下血、腸が狭くなることによる下痢や便秘、お腹の張りといった症状が見られます。また、がんは大きくなることで腸を塞いだり、ねじれてしまう腸閉塞を起こすことがあります。腸が塞がると便やおならを出せなくなってしまい、胃へ逆流したり、便汁様嘔吐を起こしてしまうことも。排泄物が溜まった腸はパンパンに膨らみますから、破裂すると命を落としてしまう危険性もあります。
一般的には、早期発見できれば完治の確率は高くなると言われていますが、統計データによると日本人の男女ともに患者数が増えています(左上の表参照)。また、がんのうち、大腸がんによる死亡数の順位は、男性は2位、女性は1位と高い傾向にあるのが現状です。
大腸がんによる死亡数が多いのはどうしてなのでしょうか?
時代の変化に伴い食生活が変化していることも関係していると思いますが、大腸の検査を受けない人が多いことも理由として考えられます。症状が出てから病院を受診した時にはすでにがんが進行しているケースも少なくありません。また、血便や下血などの症状があっても、痔によるものだと思って検査を受けるに至らない人も多いようです。
主な治療法は?
大腸がんの治療はほとんどが腹腔鏡手術です。がんの進行状態によっては手術とあわせて抗がん剤治療を行う場合もあります
腹腔鏡手術は、腹部に5〜12ミリほどの小さな穴を数カ所あけ、内視鏡や鉗子(かんし)、ハサミなどの器具を挿入してモニターを見ながら手術を行う方法です。開腹手術よりも出血量が少なく、術後の回復が早いため患者様の身体への負担が少ないのが特徴です。
また、当院では手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」を使用した大腸がん手術を5月からスタートしています。ヒノトリは、4本のロボットアームに腹腔鏡や手術器具を装着し、医師がモニターを見ながらロボットを操作して手術を行います。多関節のアームがあることで動きの自由度がより高く、大腸の奥深い部位のがんでも繊細な操作ができ、スムーズに腫瘍を摘出することができます。腹腔鏡手術と同じく傷が小さいので、患者様の身体的負担を最小限に抑えられます。
大腸がんを予防する上で、気をつけるべきことはなんですか?
規則正しい食生活を送ることは大切ですが、検査を受けなければがんの発見が遅れてしまいますから、定期的に大腸カメラ検査を受けて早期発見につなげてほしいです。
がんは、人によっては積極的な治療を選択しないというケースもあります。ですが、大腸がんに関してはどんな場合でも手術を行う必要があります。その理由は、先ほど説明したように、大腸がんが肥大することで腸を塞ぐ腸閉塞を起こしてしまうと、命に関わる危険性がとても高いからです。大腸カメラの検査を受けて早期発見できれば、がんを未然に防ぐことができますから、40歳以上の方はできれば年に1度は検査を受けましょう。
当院には総合健診センターがありますから、人間ドック等で大腸の検査を受けることができます。あるいは、私の所属する外科でも大腸カメラができますし、万が一検査中にポリープがみつかればその場で切除することも可能です。健診等で便潜血検査をして異常がなかった人でも、稀にがんが隠れているケースがありますので、少しでも気になる症状がある方はためらわずに大腸カメラを受診することをおすすめします。