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新たな直腸がん手術「TaTME」とは

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知っておきたい病気のコト



当院で「T a T M E(内視鏡下経肛門的直腸間膜切除術)」という手術法による直腸がん治療を開始しました。担当する消化器外科部長の宮城幹史医師は、これまで腹腔鏡や手術支援ロボットを用いたがん治療をはじめ、消化器外科の経験を豊富に積んでいます。宮城先生にこの手術法について話を伺いました。

直腸がんとはどのような病気なのでしょうか?

直腸がんは、大腸がんの一つで、肛門に近い直腸という部分に発生します。日本人の大腸がん患者の20~30%程度は直腸がんであり、近年は食生活の欧米化に伴って増加傾向にあると言われています。※「くくる」2 0 2 4年7月号3ページでも大腸がんに関する記事を掲載しています。

「TaTME」とはどのような治療法でしょうか?

「TaTME」とは、お腹側とお尻側から内視鏡カメラや器具を挿入して2ヶ所から同時に行う手術のことです。
 がんの手術は、基本的にはがんとその周りのリンパ節といった転移しやすい部分も含めてきれいに切り取ることが大事で、大腸がんの場合は再発を予防するために、がんの左右10センチの正常な部分も切除します。また、大腸は周囲の臓器や腹膜にもくっついていますから、がんの広がり方によっては臓器の一部も切除する必要があります。昔は開腹手術が主流でしたから、体内の奥にある直腸には器具が届きづらく、また患部が直接見えないのでとても難易度が高いものでした。現在は、お腹に小さな穴を開け、鉗子などの細長い器具を挿入して行う腹腔鏡手術に変わり、内視鏡カメラで骨盤の奥を目視しながら手術ができるようになりました。「T a T M E」は、腹腔鏡手術に加えて肛門からも患部にアプローチします。直腸がんの手術の際には、腹膜や他の臓器にくっついている腸の表面を剥がして腸を動かしやすくする作業や、転移の可能性があるリンパ節を取り除く治療(リンパ節郭清)なども必要なので、これらをお腹側と肛門側の両方から行うことで、腹腔鏡手術だけで治療するよりも手術時間を大幅に短縮できます。この手術は医師が複数人必要となりますが、手術時間が短くできることで患者さまの身体の負担軽減につながるのです。もう一つのメリットは、肛門側からアプローチすることで肛門近くのがんをより正確に捉えられるため、がん組織をきれいに切除できる点です。それによってがんの再発率低下が期待できます。

この治療が対象となるケースは?

早期がんをはじめとしたほとんどの症例は、お腹からアプローチする腹腔鏡手術が基本です。「T a T M E」が適用となるのは、進行した直腸がんで、特に肛門に近い下部直腸がんです。進行がんの治療は、先に放射線治療や抗がん剤治療を行い、がんを小さくして再発リスクを下げてから手術を行うケースが多いのですが、放射線や薬の影響で組織が硬くなる繊維化や、浮腫などが起こりやすい状態になっています。繊維化が起こると、腹膜や他の臓器から腸をはがす際に硬くなっていたり、剥離層が分かりにくくなります。また、浮腫によって術中に滲出液がどんどん出てきますから手術の難易度が非常に高くなるわけです。そのため、腹腔鏡手術で1ヶ所から行うよりもT a T M Eで両方向から行うことでより効率が上がり安全にがんを摘出することができるのです。また、男性で骨盤が狭い方や肥満体型の方もこの手術の対象となります。その理由は、骨盤が狭いと、腹腔鏡手術では腹部から直腸まで手術器具が届きづらく、肥満で内臓脂肪が多いと内視鏡の視野が狭くなり治療の難易度が上がるためです。沖縄県は肥満体型の方が多いので、この治療が必要とされるケースが今後増えると見込んでいます。

宮城先生が治療する上で心がけていることはなんですか?

治療する上で患者さまが自身の病状をしっかりと理解することが大事ですから、その方の理解度に合わせて病気や治療法を分かりやすく説明するように気をつけています。大腸がんの場合は治療せずに放っておくと、便が詰まって大腸閉塞という危険な状態になってしまうため、手術が必要な場合がほとんどです。ですからリスクも含めきちんとお話して患者さまが納得し、患者さまと医療者が足並みを揃えて治療していくということが大切だと思っています。病気のことや症状について少しでも気になることがありましたら、遠慮せずに医師やスタッフに相談していただけたらと思います。今後はこの治療法をさらに多くの患者さまに提供できるよう、術者の教育や人員確保など体制を強化していきたいと思っています。

動画で知る直腸がんと治療法(TaTME 手術紹介)